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■ ■ ■ グリーンキーパーのひとり言(58) ■ ■ ■

■減農薬

梅雨らしいジメジメとした毎日が続いています。
芝を育てる中で、「何が一番必要ですか?」と聞かれると、私は最初に「太陽」そして2番目に「水」と答えます。
植物がエネルギーをつくるために、太陽の光を利用し、光合成という生化学反応を行うことは知られていますが、これらも水が無ければ成り立ちません。
そういった意味では、鬱陶しい梅雨も貴重な水をもたらすもので、毛嫌いしてはいけないのですが、高温多湿が芝にリスクを与えることも事実です。
特に近年、様々な要因により、大気の状態が不安定になりやすく、ゲリラ豪雨や突風といった昔の梅雨時期には見られなかった災害も増加しています。

雨の17番ホール
雨の17番ホール

梅雨の晴れ間
梅雨の晴れ間

改修した4番ティー
改修した4番ティー

ゴルフ場の芝は植物ですが、生育環境が良好なときには見えない病気や生育障害が、温度や湿度等の環境要因が悪化すると現れてきます。
土壌中には、多種多様な微生物が存在し、生育に役立つものを善玉菌、病害などを引き起こすものを悪玉菌と呼んでいます。微生物群には、通常バクテリアと言われる細菌類、善玉の代表である放線菌、カビなどの糸状菌類があり、そのバランスを保って多様性を持たせることが重要です。
芝が弱った時に発病するのも糸状菌が直接的な原因ですが、これを叩くために殺菌剤を多用すると、微生物群が壊れ、善玉菌も減少します。無菌状態の土壌で最初に大発生するのは糸状菌で、滅菌を目指す予防殺菌剤散布では、最終的に良い収穫ができないことが、農業でもわかってきました。病原菌は存在しても、負けない拮抗作用をもつ善玉菌を増やしたり、共存できる菌数を増加させ、土壌バランスを保つことが大切なのです。
しかしながら、私が農薬全てを否定しているわけではありません。ベントグラスは寒冷地芝ですから、埼玉の夏は、どうしてもコンディションが落ちてきます。
ましてアンジュレーションのあるグリーンの中では、環境の悪いエリアも出てきます。そんなときは殺菌剤で一時的に悪玉菌の増殖を抑えて、芝の体力回復を待ったり、涼しくなるまで、あるいは天候が回復するまで、じっと耐えるのです。
芝は多年生植物で、5年も10年も、もしかするとそれ以上、連作しなければいけない作物ですから、農薬はスポット的に使用し、できるだけ土壌バランスを壊したくないと考えています。

微生物の働き
微生物の働き

様々な微生物
様々な微生物

ミネラルによる水分子の変化
ミネラルによる水分子の変化

減農薬の取り組みには、いくつかのポイントがあります。特に予防散布を基本として滅菌プログラムを長年続けてきたグリーンでは、最初の「我慢」が必要です。
全体菌数が少ない土壌では糸状菌が優占し、どうしても発病し易くなります。その時に全ての菌を抑えるような殺菌剤を選択せず、散布回数もなるべく減らしていくのです。極論すれば少々の病害には目をつむることも必要です。農業のように堆肥を大量に投入するような手法は取れないので、初期段階でいくら微生物資材を購入して散布しても、それほどの効果は期待できません。

エアレーション
エアレーション

口径5㎜の穴
口径5㎜の穴

ミネラル資材
ミネラル資材

エアレーションのような物理的作業も、土壌環境を変えるには有効ですが、ワングリーンのコースは、営業面を考えるとあまり思い切った事ができないのも実情です。しかし有機物を分解する微生物の多くが酸素を必要とする好気性微生物なので、更新作業機械もさらに進化していくことでしょう。
微生物以外の資材で重要なのは「ミネラル」です。ミネラルという言葉は、健康志向の現代では身の回りに氾濫していますが、ここで話すミネラルは、単にマンガン、鉄等々といった微量要素(元素)のことではありません。本来の意味である「鉱物」の性質を反映した「結晶構造をもったミネラル」を指しています。これらの鉱物由来のミネラルは、土壌をイオン化し、土の中に隙間をつくります。すると透水性も良くなり、微生物の活動も活発になることで、芝の栄養や水分の吸収能力が格段に向上するのです。
古代の農地は、山の鉱物を通過した雨水が、川の氾濫と共に豊富なミネラルを供給してきました。その繰り返しが肥沃な土壌をつくり健全な作物を育てていたのです。川の護岸を整備し、化成肥料で養分を与えてきた現代農業では、土地は荒れ、トラクターの耕運機が無ければ耕せない程硬い農地へと痩せていきました。同時に連作障害や病害が蔓延し、農薬の量も増加していったのです。
近年ではミネラルと微生物を活用した有機農法に回帰する農家も増えてきました。時間はかかりますが、食味のよい野菜が安定して収穫でき、減農薬で経費も削減できるのです。
ゴルフ場もバブル期には、化成肥料と農薬でサンドグリーンを維持することが当たり前になっていました。しかし毎年、根系を中心とした有機残渣は土中に蓄積され、貧困な微生物群では分解する能力がありません。結果、大きなエアレーションで物理的に土を入れ替えるしか方法がなくなってしまいます。
落葉樹を中心とした森で、自然の分解力が無ければ、落ち葉がたまり続けて、山は毎年少しづつ高くなってしまうでしょう(笑)
自然の力は偉大です。1年分の落ち葉は、全て微生物が分解し、森に栄養を与えているのです。
我々もゴルフ場という人工的なフィールドですが、なるべく自然の力を借りたいと思っています。自然の中で人間が自分中心の考え方でコントロールしようとした時に、手痛いしっぺ返しを受けることを先人たちは教えてくれています。

 

 

清澄ゴルフ倶楽部 グリーンキーパー野呂田 峰

 

 

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