コラムColumn

グリーンキーパーのひとり言68

散水設備

猛暑です!
関東は6月末に異例の梅雨明け宣言が出され、以来太平洋高気圧にすっぽりと覆われて猛烈な暑さが続いています。西日本の大雨による災害の規模や範囲も、梅雨前線によるものとしては過去に例がなく、このコラムでも何度か取り上げたように「亜熱帯型の気象」へと移行していることがわかります。
ゴルフ場の芝管理において自然の雨以外に人為的に散水をしているであろうことは、どなたも想像されると思います。しかしながらその「水事情」が各コース本当にまちまちであるということはあまり知られていません。

① 水源   (水道水、井戸水、近くの川の水、雨水溜池の水、等)
② 散水設備 (散水栓、スプリンクラー、給水タンク車、池からのポンプアップ、等)
③ 散水制御 (中央集中有線・無線、現場サテライトタワー型、デコーダータイプ、等)

芝は植物なので、水分が無くては生育できません。日本は全体としては温暖で雨も多いため、人工的な散水システムを毎日活用するわけではありませんが、異常気象が常態化し、何日も降雨がないことも珍しくなくなってきました。
管理上最重要課題である「散水」の設備を整備することは、コースをつくる我々にとって大切な仕事となっています。

  • 清澄GCの水源(溜池)

  • グリーンの散水

  • フェアウェイの散水

散水のスタートとなる水源が何になるのか? これはかなりシビアな問題です。水道水は非常時にサブシステムとして利用しているコースはありますが、メインで使用すると莫大な水道料金になるため非現実的です。コース内に井戸があり、これを主な水源としているコースはかなり恵まれています。水質、水温等が年間通じて安定しているからです。河川からの給水も同様で、取水制限が無ければ申し分ありません。
清澄GCは残念ながらこれらの水源は皆無で、調査しても今後導入できる見込みはありません。そうなると最後の手段は雨水の溜池です。3番ホールから4番ホールに渡る途中の大きな池が水源で、絶壁の池周りからかなりの水量かと思いきや・・・実は水深が3.5m程しかありません。夏場に焼けたフェアウェイを見ると、スプリンクラーがあるのに何故?と思われますが、無尽蔵に使えない台所事情があるのです。

  • フロート交換作業

  • 送水用のフロートポンプ

  • 250t地下タンク

過去に夏の渇水(コラム49参照)でグリーン用の水も危うくなる場面を経験し、散水方法も様々な工夫をしています。グリーンにおいてベースとなる夜間散水は最小限(4分~7分)とし、後は現場の状態を見ながらタンク車や散水栓より手散水で補います。
グリーン周りやその他の日本芝の部分も以前はスタンド式のスプリンクラーを使用していましたが、水量が多いため短時間に狭いエリアしか撒けず、効果的でない上に貯水量を減らします。そこで最近はスミシャワーに代表されるような小水量で長時間撒く手法をとっています。この方法だと水圧が落ちないので、多くのエリアにじっくりと染み込む散水が可能となります。

  • スミシャワー

  • クイックカプラー

  • 小水量ヘッド

散水制御の分野において近年ひとつの画期的な進歩がありました。清澄では現場でプログラムを組めるサテライトと呼ばれるタワーをパソコンで集中制御しているのですが、その使用をスマホやタブレットを利用して遠隔操作できるようになったのです。サテライトの設置場所から目視できないスプリンクラーが、今では水が出るのを現場で確認しながらスマホで起動させられるのです。夜間の急な雷雨の時、家にいながら散水プログラムを停止し、無駄な散水を中止することもできます。

  • 管理棟集中制御

  • サテライト

  • スマホの遠隔操作

池から汲み上げた水は一旦地下にある250tタンクに貯められ、2台の送水ポンプを使ってコース全域に送られます。このポンプも近年インバーター式に変わったことで、古くなった配管への負担も減少し、圧力も一定に保つことができるようになりました。コース内は0.8Mpa~1.0Mpa(10×kg/c㎡)の高圧力なため漏水事故も起こりやすいのです。

  • インバーターポンプ

  • 漏水事故

  • 漏水事故

コースによってはグリーンにさえ満足な散水設備がなく、夏場は毎朝夜明け前にキーパーが手散水に通っているような悲惨な現場もあります。しかし我々の仕事はその努力を称賛するのではなく、与えられた条件の中で様々な情報を収集し、最適な設備を導入するためのプレゼンテーションをすることだと考えています。当クラブも井戸水が潤沢にあるようなコースにはかないませんが、将来後輩たちが少しでも楽に良いメンテナンスができるように日々グレードアップしています。

清澄ゴルフ倶楽部 グリーンキーパー 野呂田 峰

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