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グリーンキーパーのひとり言42

暖地型芝草のグリーン

温暖化、猛暑、ゲリラ豪雨・・・  最近よく耳にする気象用語ですが、これらのキーワードと「寒地型芝草」という用語に結びつきを感じる人は、おそらくいないでしょう。
この寒地型芝草の代表例がベントグラスであり、日本のグリーンで人気の芝草ということになります。専門的な話は抜きにして、寒地型!というくらいですから、当然暑いのが苦手です。過去にお話したように、シャーク(品種のひとつ)等のニューベントの開発で耐暑性の高いものを我々も日々研究していますが、やはり植物には生育適地があり、最近の気候は限界に近づいています。
ではなぜ?ベントグラスなのでしょう。
最近のプレーヤーには一度も経験したことがない方さえいらっしゃいますが、日本には コーライグリーンという暖地型芝草のグリーンが数多く存在しました。過去形にすると「うちにはまだあるよ!」というゴルフ場の反発が聞こえてきそうですが、おそらく20年前の10分の1以下には減っています。埼玉県でもコーライグリーンの残っているコースはすぐに数えられるほどになりました。
ベントグリーン人気の最大の理由は「ボールの転がりの良さ」にあります。葉の硬いコーライ芝は、どんなに上手に仕上げても、生育期にベントグラスのような滑らかな転がりとスピードを出すことは困難です。
プロのトーナメントでも、関東でコーライグリーンを採用しているのは、確か川奈ホテルGCだけになったと思いますが、競技やメディアのベント志向も流れに拍車をかけているようです。

  • 夏場のコーライグリーン

  • 暖地型芝の休眠

  • 寒地型と暖地型芝のライン

そんな中、最近海外では新たな暖地型芝草が注目を集めています。それは、バミューダグラスのグリーンです。
日本では「ティフトン」と聞くと「ああ、あの夏に元気な雑草ね・・・」と、あまり良いイメージをもたれない方も多いでしょうが、このバミューダグラス類も品種改良が進んでいます。(※ティフトンはバミューダグラスの1品種)
その結果、細葉でコーライよりも葉質が柔らかく転がりの良いグリーンをつくることが可能となってきました。衛星放送の進歩で、春先に日本勢がタイなどの東南アジアで活躍する映像を見る機会がありますが、パッティングのシーンで全く違和感がありません。つまりベントグリーンで見慣れたようなスムーズな転がりと色合いを新しいバミューダグラスは出しているのです。

  • アトランタ・アスレチック・クラブ

  • 4月のチャンピオンドワーフ

  • 4月のチャンピオンドワーフ

来年のPGAメジャーのひとつとなる「全米プロゴルフ選手権」はアトランタのアスレチック・クラブで開催されますが、様々なコース改造の中でも特筆すべきは、ベントからバミューダグラスへの草種転換でしょう。以前このコースのスープリ(グリーンキーパー)の話を聞いたことがありますが、「8月のアトランタでトッププロの球を弾くような硬さのベントグリーンをつくることは不可能だ!」と語っていました。
日本の関東と似たような気象エリアであることを考えると、我々もベントグラスに固執するべきではないのかもしれません。
採用されたバミューダはチャンピオンドワーフという最新の品種で、幸いにも、今年の4月に現地を視察したキーパーが近隣にいたため、詳しい話を聞くことができました。
ただし、霜の降りるようなエリア(関東も含む)では、冬に枯れたように休眠してしまいます。いくつかの問題をクリアしないと日本のワングリーンでは営業的に難しいでしょう。

  • 沖縄・那覇空港

  • 沖縄名物ソーキそば

  • サザンリンクスGC

そんな折、チャンピオンドワーフのメーカーの方と埼玉のキーパー数名で沖縄に「バミューダグラス視察ツアー」の話が持ち上がりました。1泊2日で2コースを見る強行日程でしたが、非常に有意義な旅となりました。
沖縄は冬でも日没が遅いため、ゴルフは基本的に1ラウンドスループレーになります。早朝出発した我々は昼食後の午後スタートです。サザンリンクスGCという沖縄でも最も景観の良いシーサイドコースで、この日は快晴微風の絶好のコンディションでした。

  • 海越えのティーショット

  • 花粉の無いナンヨウスギ

  • 大きな水筒

このコースは海越えのホールもいくつかあり、景観が本当に素晴らしいので、ラウンドの印象が天候で全く違うことが予想できました。ちなみに翌日は強風、小雨まじりでしたので、スケジュールが逆だったら・・・とゾッとしました。(笑)
強風エリアの代表的なリンクスコースで、樹木も高いものはなく、ガジュマルのような
南方系の常緑がメインで、ナンヨウスギという針葉樹を初めて見ましたが、その生気あふれる緑に感動を覚えました。この日も25℃を越える夏日で、カートには特大水筒が常備されており、土地柄を感じると共に、埼玉でも夏場対策となるアイディアだとカメラに収めてきました。

  • 海越えのショートホール

  • ティフドワーフ+ポアOS

  • セントオーガスチンのランナー

グリーンはバミューダグラスですが、ベースはよくあるティフドワーフというもので、それほど葉は細くなく、コーライ芝に近い印象です。冬場は沖縄といえども暖地型芝草は
少し色落ちするので、ここにポアトリビアリスという寒地型芝草の種を10月にオーバーシードしてありました。ポアは日本でいうスズメノカタビラに近いもので、春に気温が上昇しバミューダが元気になってきたら、除草剤と温度で消してしまうそうです。
淡い綺麗な緑色を出していましたので、この手法が使えれば、関東エリアのワングリーンでもバミューダ採用のヒントになるのではないでしょうか? フェアウェイやラフには様々な暖地型芝草が混在していましたが、中でもセントオーガスチンというノシバをもっと元気にしたような広葉の芝は、ランナーの勢いも凄く、グリーンやティーへの侵入には頭を悩ませているようでした。

  • 仮のプレハブハウス

  • 強風曇天の那覇ゴルフ倶楽部

  • ティー周りの植栽

2日目は日の出と共に(小雨で曇天でしたが・・・)那覇ゴルフ倶楽部の視察となりました。再来年の日本オープン開催コースで、進入路からハウスまで大掛かりな改装工事中でした。しかし、プレハブのハウスも立派で、ワンマンオーナーのメジャーにかける意気込みを感じました。視察中に見かけたこのオーナー様はたいそう樹木がお好きな様子で、ティー周り、グリーン周りにもコースメンテナンスを邪魔するものが多々あり、同業者としてキーパーのご苦労が伺えました。

  • チャンピオンドワーフ

  • 池改造中

  • バンカー

こちらのグリーンが改造1年目のチャンピオンドワーフ(新しいバミューダグラス)で、
まだ各面の仕上がりにばらつきはありますが、細葉で面も硬く、日本オープンが楽しみな
グリーンでした。ただし見た目よりも芝目がきつく、傾斜も強いのでラインの読みはプロでも手こずるでしょう。これは強い風や水の流れによるものだと考えられるので、通常の気象条件では、どのようになるのか、来年の全米プロ(アスレチックGC)を注目したいと
思います。
埼玉県は2グリーンのコースが多いので、2ベント化したコースも今後ウィンターグリーンとサマーグリーンという元の形に戻すのも一考ではないでしょうか?
ただし、コーライではなく、最新のバミューダグラスに・・・

清澄ゴルフ倶楽部 グリーンキーパー 野呂田 峰

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