コラムColumn
グリーンキーパーのひとり言70
芝草と樹木
2019年03月08日
平成の年号の終焉と共に、記念すべき第70話!
なんて大層なコラムではありませんが、平成16年から静かに連載を続けてきたので、平成の終わり・・・ 感慨深いものがあります。
木々の若葉が眩しい新緑の季節を迎え、コースにも色が戻ってきます。ゴルフ場における樹木は、スコットランドのリンクスや大木の少ない河川敷コースでもなければ、背景となることは勿論、立ち位置によっては戦略的にも重要です。
特に日本国内で「名門コース」と呼ばれるコースは、松林でホール間がセパレートされているケースが多く、その管理に多大なる費用と時間が使われています。
ただしこれらの樹木が、ゴルフ場の主役である芝草の生育に様々な場面で悪影響を与えていることは、あまり一般のプレーヤーには知られていません。
誕生から約30年経過した清澄ゴルフ倶楽部でも、樹木による様々な問題が浮き彫りになってきました。
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松林の美しいコース
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桜の綺麗な4番ホール
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11番ホールメタセコイアの紅葉
様々な問題の中でも当クラブ特有の課題が、樹木の根張りによる芝草の生育障害です。
その昔森林破壊の象徴のように言われたゴルフ場開発も、今となってはCO2の削減や自然災害の防止に貢献しているというデータも発表されています。しかし造成時には、面積当たりの残地森林の割合や、植樹の本数などが法律で厳しく定められていました。
元々セメント原料の採掘場だった当クラブの地山は、石灰岩などの硬い岩盤のため、そのままでは芝草も樹木も良好な生育は望めません。そこで造成時には大量の土(といっても千葉県の山砂)を客土して樹木を植え、芝を張ったのです。
植えられた樹木も成長するにつれ、自分を支えるためと、水分や養分を吸収するために大地に根を張る必要があります。この時下の岩盤部分には根を下ろすことができず、平均30cm厚の客土の中で、芝草との根圏争いに突入していったのです。
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表面に横根の出た樹木
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密植された樹木
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グリーンに近い樹木
厚さ30cm以上の客土というのは、ゴルフ場造成としてはかなり贅沢な仕様で、清澄の大型ダンプ搬入作業は、当時話題を呼んだそうです。ところが結果としてこの客土が、芝草の生育環境を助けるよりも、「クス、カシ、ケヤキ、メタセコイアなどの樹木が、横根だけでもそこそこ育つ」という皮肉な結果を生むことになりました。
地下深く根を張ることができる「関東ローム層のゴルフ場」にとっては、樹木の影響は日照を遮ることや風通しを悪くすることが主で、直接的な生活圏の争いにはなりません。もちろん当クラブでも同様の影響はありますが、根圏争いを解消するには、伸びてきた横根を地中で切るか、樹木そのものを伐採し、新たに盛土をして芝草の生育環境を確保しなければなりません。
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日照確保の剪定作業
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枯れ木の伐採作業
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枯れ木の伐採作業
コースにおいてグリーン周りは、特にスコアに直結する重要なエリアです。そこが樹木根の影響で裸地になっているのを放置することはできません。ベントグリーンにはどうしても日常散水するので、木の根も水分を求めて、グリーンやバンカーの中まで侵入してきます。生きているものの伐採は本当に心苦しいのですが、特に問題のある箇所から伐採と芝地の改修を進めています。
伐採できないが横根の侵入を防ぎたい場合、これまでは重機で掘り起こすしか方法がありませんでした。そこで最近登場した「ルートプルーナー」という機械に注目しています。
これはナタのような刃が土中で回転し、ゆっくりとかなり太い(最大10cm程度)根も切りながら、牽引のトラクターで進んでいきます。低速作業のため安全で、切りカスが飛ぶこともありません。盛土して芝を張るとしても、活性の高い木の根を切っておかなければ、結局元の木阿弥になってしまいます。
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ルートプルーナー
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ルートプルーナーの刃
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横根の切断状況
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樹木根の影響による裸地
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盛土補修
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芝補修終了
日本のゴルフ場には数えきれないほどの樹木があって、それをよしとする認識が強いのですが、USGAなどでは隣り合った樹木の間隔は「15m以上であることが望ましい」とされています。
実際全米OPなどのメジャー開催コースでは、アクセントとなる大木がぽつりぽつりあっても、群生しているような光景は見かけません。それどころか、10年前には林間コースであったものが、木の一本もないリンクスコースに改造されていて度肝を抜かれることもしばしばです。
元々植物の勢力争いは、「太陽光の奪い合い」だと言い換えることができます。芝草のように長時間の日陰を好まない植物は、樹木とそれほど仲良くはなれません。有名なオーガスタナショナルが、広いフェアウェイと芝のない林帯を、松葉のマルチングでくっきりとセパレートしているのは、景観上の理由だけではないのです。
世界でも「暑い国」の部類に入るようになってしまった日本のゴルフ場で、樹木の日陰はプレーしていると本当に癒されます。日本は林間コースが合う気候です。ただ肝心の芝草の生育に悪影響を与えるものについては、計画的に間引く必要があると思います。
コースは年月と共に変化していきます。今後もより良いコースとなるように、芝草と樹木の調和を図っていきたいと考えています。
清澄ゴルフ倶楽部 グリーンキーパー 野呂田 峰